『懐かしく、新しく』
宇陀牛蒡は大和野菜のひとつ。皮が輝いて見えることから金牛蒡とも呼ばれていて、肉質やわらかな品種です。特有の香りも味わっていただくために、旨み成分の元でもある皮はあえて残し、少しだけ繊維をたたいて千切りにします。同じく千切りにした人参と共に、ハチミツを煮詰めた調味料とポルト酒などで味付けをして、クレープ状の皮でシガー状に巻いておきます。
肉質しっとり、やわらかな黒毛和牛のフィレは肉汁を封じ込めるようにグリエ。ブロッコリーやアスパラガス、そら豆といった緑の野菜をたっぷり添えます。シガー状に巻いた宇陀牛蒡と人参は、澄ましバターで表面をこんがりと焼き、サクサクッとした食感を意味する、スイーツの世界でも人気のクロッカンに仕上げます。
この料理のポイントは、サーブした瞬間、お客様の五感を刺激する宇陀牛蒡の鮮烈な香りです。牛蒡のしなやかな食感と皮のサクサク感、赤ワインソースをまとったフィレ肉。噛むほどに、多彩な旨みがほとばしることでしょう。


大和春菊ソース
カークパトリックと聞いて、牡蠣を連想されたお客様は、フランス料理に精通されている方と推察します。今の若い料理人は、おそらくほとんどが知らないと思いますが、カークパトリックは、牡蠣の養殖で知られるイギリスの地名と記憶しています。彼の地で愛された郷土料理を佐々木流にアレンジ。牡蠣のプリッとした食感とクリーミーなコクを愉しめるよう、その役目をフォアグラに託してみました。あふれ出る旨みを受け止めるのは、北の荒海から届く脂の乗った寒ぶり。皮と血合いを取り除き、オーブンでふっくらと焼きます。
寒ぶりはすっきりと上品な味わいに。多くの方が抱かれているイメージを一新する仕上げにしています。フォアグラのリッチな風味との間を取り持つよう、ソースにはほのかな酸味と甘みを持たせました。繊維をつぶし過ぎず、一方で舌ざわりは損なわないよう、細心の注意を払ってペースト状にした、大和春菊のさわやかな香りとともにお楽しみください。