西大寺

第15回 初冬
福女になって「福は~内」
~西大寺節分星祭祈願会へ~

 冬の奈良は、若草山焼きが終わると少し静かになる。それは、東大寺のお水取りまでの間、世間を賑わせるような大きな行事が静まるため、外から来る観光客がオフシーズンととらえるからだろう。
 しかし、神様や仏様にオフシーズンがあろうはずもない。それぞれの寺社では地元の方々に密着した祈りの行事が続いている。その一つが、節分の行事。

 立春の前日までは「冬」、翌日からは「春」。文字通り「季節を分ける」日が節分で、カレンダーでは山焼きがすんで一週間が過ぎたぐらい、毎年二月四日前後あたりだ。
昔の人々は、季節の変わり目の邪気を払い、新しく巡り来る春がよりよいものになるよう願いをこめたのだろう。邪気を象徴する鬼に豆をまいて追い払う「豆まき」が一般的だが、寺社が多い奈良では多種多彩。
 
 そんな中、この私も「福女」として、西大寺で豆をまく側に立ったことがある。
福女というからにはその年の干支に生まれた年女。12の倍数の年回りだ。玉岡さん何歳? 何周り? と計算した方もおられるだろう。ちょうどその年、私は長編小説『天平の女帝 孝謙称徳』を世に送り出した後で、女帝が創建したこの西大寺とのご縁ができ、さらに、偶然にも生まれた干支に当たった、という次第。(うまく話しをそらせたかな?)

 西大寺は、近鉄電車の乗換駅にもなっている大きな駅の名(正式には大和西大寺駅)でも知られ、界隈の地名も広域に西大寺。かつて東大寺と並ぶ大きな寺院であったことがしのばれる。実際、駅からは三分ほどしかかからない。
 長い歴史の中で何度も火災に遭って、創建当時の建物はほとんど焼失。女帝の壮大な志は、境内に残る巨大な石の礎石でしか想像できないが、なんと天を衝く七重の塔を築く予定であったことを目の当たりにできる。現在残っている本堂(重文)や愛染堂(重文)などは江戸時代中期の建築だが、中興の祖・叡尊(えいそん)が始めた「大茶盛式」という行事が有名で、巨大なお茶碗でお濃茶を一堂に回していただくというもの。

 節分の豆まきは、愛染堂で行われるが、境内は紅白の横断幕や赤い幟が風に揺らめき、にぎわいを見せ盛り上げる。
そもそも、この行事の正式名は「星祭」。密教で当年星という、生まれた年の干支に当たる星を祀ることなのだ。
・・と、知ったふうなことが書けるのは、豆まきの前に登壇するこの寺のお坊さんが、マイクで挨拶を兼ねてレクチャーしてくださるから。まあ、そのMCのお上手なこと。「DJ僧侶」と呼びたいほどで、境内に集まったお客さんも、笑わされ、うなずかされ、さあ福豆をゲットするぞ、との空気が盛り上がる。

 そして地元商店街の協賛者の方々や僧侶、檀信徒とともに福男、福女の登場となるのだが、男性は裃、女性は袖の長い白の水干(すいかん)を着せていただき、豆を載せた三宝を持って楼上に出ると、万雷の拍手。そう、音で魔を切る意味から、大拍手するようにと、DJ住職がお客さんに仕込んでいたのだ。
 実際、福女側では、大きな拍手がある方へ豆をまきたくなるのが人の情。「こっちこっち」と手招きされれば、「はーい、福は~内」。お客さんの手が花のようにさざめく。

 当たり、と記された福豆は地元協賛の景品と交換できるのでダブルで悲喜こもごも。しかし、何も当たらなくても、ここに参加したことで星祭は完成している。
 私も、おそらく次の年女になっても、こんな経験、望めないだろう。人生の季節を分けてまいた豆。大きく厄を払ったはずだから、あとは福をめざすばかりだ。

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兵庫県三木市生まれ。神戸女学院大学卒業。 ’87年 神戸文学賞受賞作の『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(新潮社)で文壇デビュー。 著書多数の中、幻の名画コレクションに材を取った『天涯の船』をはじめ、巨大商社の女主人の一代記『お家さん』(第25回 織田作之助賞受賞)、生野銀山を舞台に国家と人間の近代化を描いた『銀のみち一条』(いずれも新潮社)は、 明治三部作として反響を呼んでいる。 2015年に刊行した『天平の女帝 孝謙称徳』(新潮社)執筆の際は、小説の舞台が登大路ホテル奈良に隣接する興福寺だったこともあり、ホテルに宿泊して構想を練った。 最新作は、日本の精神文化の統一の歴史を探る『にっぽん聖地巡拝の旅[あずま下り編]』(大法輪閣)。大阪芸術大学教授、関西大学客員教授。

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