ホテルステイの楽しみの一つは、バーのドアをくぐること。
登大路ホテル奈良の「ザ・バー」に一歩足を踏み入れると、薄暗くて重厚で、高級そうなお酒のボトルがずらりと並んだ棚に、磨き上げられたグラスがきらめいて…。ちょっと緊張するのは、オーセンティック・バーとも呼ばれるとおり、そこにはお酒と人との「authentic=本物」の時間が流れているからだ。
普段は、飲むなら居酒屋などで食事と一緒に、ということが多いのだが、お酒をじっくり味わうならば、やっぱりバーで。お酒はそんなに強くないから、泊まりの時こそ帰りを気にせず、一杯を楽しむ。仮に酔っても、這ってでも寝床にたどりつける強みがいい。
まずは、よく海外のホテルにあるご当地カクテルがあるか、聞いてみた。そう、シンガポールではシンガポール・スリング、ベトナムならサイゴン・スリング、というような。
「いえ、特にそういうオリジナルはございませんので、お客様のお好みのままに」
失礼しました。ちょっと知ったかぶりだったかも!? そこで思いつくままリクエスト。
「アルコール度数があまり高くなく、甘くなくてフルーツが入ってるもの――」
と、これはほとんどワガママに近い。なのに平然と、
「かしこまりました」
シャカシャカ、小気味よいシェーカーの音。ひんやり冷たいグラスにオシャレな彩りで出てきたのは、いちごを使ったカクテルだった。さっきディナーのデザートに出たフレッシュないちご。奈良特産の「ことか」だそうだが、ラムがベースで甘さはおさえられてスッキリ。これぞまさしく奈良のご当地カクテルか。
嬉しくなって、バーテンダー歴17年の川上敬介さんにしばしお話の相手をしてもらう。
奈良には「バー文化」と言ってもいいくらい、お酒を飲むなら居酒屋ではなくバーへ行く人が多いそうだ。それには良質なバーが多くなければいけないが――。
聞けば、世界的なコンテストで奈良から入賞者が出て、その後に優勝者も出たことで、高いレベルのバーが点在しているのだという。同じカクテルを作るレシピでも、人と技とで違ってくるのだから、学んで競って向上するのは自然なことなのだろう。
「それに、大阪などにくらべて人も少ないので、周りを気にせず隠れ家的存在として奈良のバー訪れる方も多いです」
なるほどそんなメリットもあったのか。
どうやら奈良の人たちには、決してバーの敷居は高くないようだ。
いちごのカクテルでほどよくアルコールに馴染んだ後の二杯目は、いざウイスキーへ。今や品薄になるほどのブームだが、カウンターには、一度は試してみたいと思っていた名品もずらり。いつもはハイボールかオンザロックが好みだが、今夜はせっかくこんないい雰囲気のバーにいるのだから、ちょいと背伸びしてスコッチをストレートで。
うーん、スモーキーな香り。深いなあ。
ウイスキーの熟成について川上さんにお話を伺いながら、いつかほろ酔い。ここでは日頃の慌ただしさもストレスも、ゆるりと浄化されていく感じ。なのに夜はまだまだ長いから、チェイサーの冷たいお水をいただきながらゆっくりと。バーには大人の時間が流れている。
【ザ・バー(登大路ホテル奈良1階)】
17:00~25:00(L.O.24:30)
ザ・バー | 登大路ホテル奈良【公式サイト】 (https://noborioji.com/dining_bar/bar/)