奈良と柿

奈良の柿

奈良と柿

平城京跡から柿の種

鮮やかな色と円満なかたちが、見るものを豊かな気持ちにさせてくれる柿の実。『正倉院文書』には「菓子」として取引きされていたことが記され、実際に平城京跡から柿の種も発掘されています。鎌倉時代末期の『春日権現験記』には軒下に吊るした干し柿が描かれ、続く室町時代には柿の産地として大和(奈良)の名前が登場します。

軒下に干し柿が描かれた『春日権現験記』 国立国会図書館蔵

軒下に干し柿が描かれた『春日権現験記』 国立国会図書館蔵

柿には免疫力や抗体力を高めるビタミンAやC、血管の透過性を高め、二日酔いにも効くといわれるタンニン、利尿作用のあるカリウムなどが豊富に含まれています。また、最近では奈良県立医科大学のグループによって、抗菌作用のある柿渋が新型コロナウイルスを不活性化するとの研究結果が発表されるなど、柿の持つ力に改めて注目が集まっています。

甘柿と渋柿

1000近くの品種があるといわれる柿は、種子と渋(しぶ)の関係から次の4つのグループに分類することができます。種子が入っても入らなくても樹上で自然に甘くなる「完全甘柿」、種子がたくさん入ると渋が抜けて甘くなる「不完全甘柿」、種子が入ると部分的に渋が抜ける「不完全渋柿」、そして種子が入っても入らなくても渋いままの「完全渋柿」の4つです。柿の実を切ったときに種のまわりに褐色の斑点が入っていることがあります。これは種から出た物質によって固まった渋、赤ワインなどに含まれているタンニンです。斑点になって固まったタンニンは水に溶けず、口にしても渋さを感じることはありません。渋柿も熟せば甘くなります。また干し柿にしたり、ヘタにアルコールを塗って数日置くなど、脱渋の工夫次第では甘柿以上においしくもなります。

渋柿の「平核無」は成長とともに種がなくなる

渋柿の「平核無」は成長とともに種がなくなる

甘柿のルーツ「御所柿」

江戸時代初期、現在の御所(ごせ)市を原産地とする斑点の入らない完全甘柿が、「御所柿(ごしょがき)」として全国に広まりました。弾力のある果肉は濃い紅で、風味は極上。正岡子規が奈良で食べた柿もこの御所柿で、一晩で驚くほど多くの柿を平らげました。甘柿のルーツといわれる御所柿ですが、栽培が難しく流通量も少ないため、「幻の柿」と呼ばれることもあります。

「極品なり」と記された大和御所柿 『日本山海名物図会』 国立国会図書館蔵

「極品なり」と記された大和御所柿 『日本山海名物図会』 国立国会図書館蔵

奈良県の柿出荷量は全国2位

奈良県の柿出荷量は、お隣の和歌山県に次いで全国2位。その多くが五條市周辺で栽培されており、ハウス柿を含め7月から12月頃まで様々な柿を楽しむことができます。明治時代に岐阜県で発見された甘柿の「富有柿(ふゆうがき)」が、大正8(1919)年に奈良で最初に栽培されたのも、西吉野(現在の五條市)でした。大正10(1921)年の大寒波では多くのミカンが枯れてしまったこともあり、以後多くの富有柿が栽培されるようになります。お米が60kg15円の時代に、柿は10㎏20~25円と高価格で取引されたのだとか。同市にある奈良県果樹・薬草研究センター併設の「柿博物館」では、柿に関する様々な資料や映像が見られるだけでなく、シーズンには本物の柿の果実がずらりと展示されています。

柿について学べる「柿博物館」

柿について学べる「柿博物館」

シーズンには「柿博物館」に本物の柿がずらりと並ぶ

シーズンには「柿博物館」に本物の柿がずらりと並ぶ

偶然生まれた「刀根早生」

今から約60年前、山の辺の道沿いにある天理市萱生(かよう)町で偶然誕生したのが、現在日本各地で栽培されている「刀根早生(とねわせ)」です。1959年の台風で被害を受けた刀根さんは、裂けてしまった柿の木に「平核無(ひらたねなし)」を接ぎ木しました。平核無は、日本で最も多く栽培されている渋柿です。名前のとおり平らで、成長する過程で種子が退化してたねなしになり、10月中旬に収穫後、脱渋してから出荷します。ところが、接ぎ木して育てた柿は、味も外見も平核無に見劣りすることなく、9月中旬には収穫できるほど早く育ったのです。

「刀根早生」の成長 つぼみから、花が咲き終われば実をつけ、収穫を迎える

「刀根早生」の成長 つぼみから、花が咲き終われば実をつけ、収穫を迎える

観察を続けた刀根さんは、これが突然変異種であることを確信、農業試験場の指導を受けるなどし、1980年に新品種「刀根早生」が認定登録されました。柿は、木や実を傷めないよう摘蕾(てきらい)と摘果(てきか)を施して大きく育てます。春には清楚な花が、秋にはぽってりとつややかな実が、山の辺の道を飾ってくれます。

抗菌力を生かした「柿の葉寿司」

奈良県南部を中心に伝わる「柿の葉寿司」は、海のない奈良県で魚料理を食べるために工夫された郷土食です。柿の葉には食べ物を腐りにくくする効果があり、紀伊山地を越えて和歌山から運ばれてくる塩サバと柿の葉の香りが程よくなじんで、食欲をそそります。

海のない奈良の知恵が詰まった「柿の葉寿司」

海のない奈良の知恵が詰まった「柿の葉寿司」

つやつやとして水をはじく柿の葉は、柿の葉寿司のほか日本料理のお皿としても使われてきました。一方、紅葉した葉は美しい反面、退色したり折れたりしやすいのが難点。そこで奈良県果樹・薬草研究センターは赤い葉を長期保存する技術を開発して特許を取得。センターでは、「桃栗3年柿8年」と言われる柿の生育を3年まで短縮する生産システムや、新たな高品質甘柿の育成が研究され、生産者のみなさんを技術的にサポートしています。

柿は品種の違いだけでなく、その熟し方によって随分風味が変わります。パリッとかための柿も、とろとろの熟柿(じゅくし、ずくし)も、あるいは干し柿も、「菓子」と呼ばれるにふさわしい甘さです。いろいろ食べ比べてみて、柿の奥深い味わいを再発見してみてはいかがでしょうか。

登大路ホテル奈良からのアクセス

柿博物館

Webサイト

http://www.pref.nara.jp/9617.htm

住所

五條市西吉野町湯塩1345

アクセス

京奈和自動車道五條ICより約7キロメートル、車で約20分

情報

※工事のため2020年12月19日まで臨時休館
開館時間 9:00~16:30
休館日 月曜日(月曜日が祭日の場合は翌日)、年末年始(12月28日から1月4日)

※2020年12月現在の情報です。

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