聖徳太子1400年御遠忌

太子生誕地とされる橘寺(明日香村)

聖徳太子1400年御遠忌

今年2021年は、聖徳太子(574~622)の1400回忌という節目の年にあたります。法隆寺をはじめとする太子ゆかりの寺院では、その遺徳をたたえる荘厳な遠忌(おんき=没後長い歳月を経た年忌法会)が執り行われ、奈良国立博物館ほか多くの施設で特別展が開催されるなど、普段間近にみることのできない寺宝に接する貴重な機会となっています。また入江泰吉記念奈良市写真美術館では、法隆寺昭和大修理の撮影を依頼されたこともある入江による、法隆寺の写真展が開催されます。

聖徳太子はいなかった?

7世紀はじめ仏教を中心とした国造りを行い、遣隋使(けんずいし)派遣、冠位十二階や憲法十七条を制定したとされる聖徳太子。日本古代史上最も有名な人物として、今でも旧一万円札のお顔を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。聖徳太子の肖像は、1930年の百円券に登場以来1986年まで計7回印刷されました。戦前の紙幣に使われた人物の中で、GHQに戦後使用が認められたのは聖徳太子のみ。太子が十七条憲法で唱えた「和を以て貴しとなす」が、平和主義とみなされたそうです。

日本赤十字社赤十字博物館報第13号(1933年)国会図書館蔵

日本赤十字社赤十字博物館報第13号(1933年)国会図書館蔵

一方で、観音菩薩の化身として信仰の対象となった聖徳太子のイメージや評価は、時代によって変遷し、その実在を巡る論争も数多くあります。太子没後20年余り経った643年に、蘇我入鹿(いるか)に息子の山背大兄王(やましろのおおえのおう)が攻められ直系一族が滅亡、斑鳩(いかるが)宮や法隆寺が焼失して史料が失われたことや、二歳で東を向いて「南無仏」と唱えたり、一度に十人の訴えを聞き分けたという超人的な伝説も、実在を疑う一因になっているのかもしれません。2017年には学校教科書の記述を「聖徳太子」という死後の尊号から本名の「厩戸(うまやと)王(皇子)」へ変更する改定案を巡り、国会で論戦が繰り広げられました。史実と伝説の境界線は立場によってさまざまですが、「厩戸皇子」という人物が実在したことを否定する研究者はいないようです。

仏教興隆に生涯をささげた聖徳太子

聖徳太子最古の伝記とされる『上宮聖徳法王帝説』などによると、聖徳太子は574年、のちに用明天皇となる橘豊日尊(たちばなとよひのみこと)と穴穂部間人(あなほべのはしひと)皇女との間に生まれました。用明天皇と間人皇女は欽明天皇を父とする異母兄妹であり、用明天皇の母 堅塩媛(きたしひめ)と間人皇女の母 小姉君(おあねのきみ)もまた、蘇我稲目(そがのいなめ)を父とする異母姉妹でした。彼女たちの兄弟である蘇我馬子は太子の大伯父にあたります。当時の日本は蘇我氏を中心とする崇仏派と、物部氏を中心とする廃仏派が対立していましたが、聖徳太子は生まれながらにして、蘇我氏の影響を色濃く受けていたことになります。

黒馬に乗る聖徳太子(「聖徳太子のゆらい」17世紀後半)国会図書館蔵

黒馬に乗る聖徳太子(「聖徳太子のゆらい」17世紀後半)国会図書館蔵

太子16歳の589年、大陸では隋が中国を統一し、東アジアの情勢が動きだしました。日本では593年、用明天皇の妹である推古天皇が即位。蘇我馬子と聖徳太子は、推古天皇をともに補佐し、仏教の興隆に励みます。600年に第1回遣隋使を派遣、日本の地位を守るための外交政策が強化されます。603年に冠位十二階、翌604年には群臣への訓戒「憲法十七条」が制定されました。

300メートルにわたる法隆寺参道の松並木

300メートルにわたる法隆寺参道の松並木

この頃、古墳に代わって権力の象徴とされたのが寺院でした。605年、聖徳太子は交通の要衝であった斑鳩に建てた宮に移り住み、斑鳩寺 のちの法隆寺を建立します。606年、推古天皇に「勝鬘経(しょうまんぎょう)」や「法華経」を講説し、翌607年「日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す」と書かれた国書を小野妹子に託した第2回遣隋使を送ります。「日出る処」というのは単に「東」を指す仏教用語であり、隋に対して日本が上位であることを示すものではありませんでした。妹子らの帰国後は、仏教書の意義や内容を解説した「義疏(ぎしょ)」を次々と完成させました。

621年12月、太子の母 穴穂部間人皇后が病に倒れ、翌622年2月には太子の妃と聖徳太子も相次いで病で亡くなりました。49歳でした。仏典を深く読み解く中で、『世間は虚仮 唯仏のみ是れ真なり(世の中はむなしい仮のもので、ただ仏法のみが真実である)』という境地に達した太子は、死後に宗派を問わず信仰の対象となり、親鸞(1173~1263)ら多くの人々に影響を与えることになりました。

斑鳩の里

聖徳太子母 穴穂部間人皇后開基と伝わる中宮寺

聖徳太子母 穴穂部間人皇后開基と伝わる中宮寺

法隆寺の北東には、斑鳩の里の景観そのものといえる寺院が点在しています。
法隆寺東院伽藍の東奥に隣接する「中宮寺(ちゅうぐうじ)」は、聖徳太子の母 穴穂部間人皇后創建と伝わる尼寺です。国宝の「本尊菩薩半跏像(如意輪観世音菩薩)」は、スフィンクス、モナリザと並び「世界の三つの微笑像」と呼ばれ、和辻哲郎は『古寺巡礼』の中でその笑みを「神々しいほどに優しい『たましいのほほえみ』」であると表現しました。池の中央に建つ御堂に座ってアルカイックスマイルの本尊と向き合うと、時間の流れ方がゆるやかに感じられます。

飛鳥時代の仏像が多い法輪寺

飛鳥時代の仏像が多い法輪寺

中宮寺から北にある片野池の脇をさらに直進すると、山背大兄王が太子の病気平癒を願って建立したとされる「法輪寺(ほうりんじ)」の三重塔が正面に見えます。手前に設置された「法輪寺ポケットパーク」のあずまやから遠景を眺めるのもおすすめです。1944年の落雷で焼失した国宝三重塔は、作家幸田文らの支援や法隆寺の昭和大修理で知られる宮大工の西岡常一氏らにより1975年に念願の再建を果たしました。

現存最古、706年創建の法起寺三重塔

現存最古、706年創建の法起寺三重塔

法輪寺から東へ進みバス道を渡ると、太子が法華経を講じた岡本宮(おかもとのみや)を前身とする「法起寺(ほうきじ)」の三重塔の相輪が見えてきます。706年に建立された日本最古の国宝三重塔は、1300年以上の時を経て斑鳩の里に溶け込むように建ち続けています。

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雪丸と達磨大師 聖徳太子ゆかりの王寺町
https://noborioji.com/noboriojiselect/article/89

主な参考資料

『聖徳太子と日本人』大山誠一 角川書店 2005
『法隆寺を歩く』上原和 岩波書店 2009
『聖徳太子―実像と伝説の間』石井公成 春秋社 2016
『聖徳太子―ほんとうの姿を求めて』東野治之 岩波書店 2017
『たずねる・わかる聖徳太子』古谷正覚他 淡交社 2020

※2021年4月現在の情報です。

登大路ホテル奈良からのアクセス

奈良国立博物館

Webサイト

https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special/922/

住所

奈良市登大路町50番地

アクセス

登大路ホテル奈良から東へ徒歩約11分(800メートル)

情報

「聖徳太子1400年遠忌記念 特別展 聖徳太子と法隆寺」
 特別展会期 2021年4月27日(火)~6月20日(日)
  前期:4月27日(火)~5月23日(日)
  後期:5月25日(火)~6月20日(日)
 開館時間 9:30~17:00(土曜は19:00まで)
 会期中の休館日 毎週月曜日(5月3日は開館)
 ※入館は閉館の30分前まで

入江泰吉記念 奈良市写真美術館

Webサイト

http://irietaikichi.jp/news/exhibition/540

住所

奈良市高畑町600-1

アクセス

近鉄奈良駅前から市内循環バス外回りで「破石町」下車、東南へ徒歩約8分(700メートル)

情報

「奈良聖徳太子1400年御遠忌記念 入江泰吉「法隆寺」展」
 展覧会会期 2021年4月3日(土)~7月4日(日)
 開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
 会期中の休館日 毎週月曜日(5月3日は開館)と4月30日、5月6日
 ※入館は閉館の30分前まで

法隆寺大宝蔵殿

Webサイト

http://www.horyuji.or.jp/news/

住所

生駒郡斑鳩町法隆寺山内1-1

アクセス

近鉄奈良駅から奈良交通バス「法隆寺前」行きで終点下車
奈良・西の京・斑鳩回遊ライン https://www.narakotsu.co.jp/rosen/kaiyu/

情報

「聖徳太子1400年御聖諱記念特別展示 法隆寺の信仰と宝物」
 特別展示会期 2021年4月1日(木)~6月30日(水)
 拝観時間 9:30~17:00(土曜は19:00まで)
 会期中の休館日 毎週月曜日(5月3日は開館)
 ※入館は閉館の30分前まで
 拝観時間 8:00~17:00(11月4日~2月21日は16:30まで)

中宮寺

Webサイト

http://www.chuguji.jp/

住所

生駒郡斑鳩町法隆寺北1-1-2

アクセス

近鉄奈良駅から奈良交通バス「法隆寺前」行きで「中宮寺前」下車、北へ徒歩約7分(500メートル)
奈良・西の京・斑鳩回遊ライン https://www.narakotsu.co.jp/rosen/kaiyu/

情報

拝観時間 9:00~16:30(10月1日~3月20日は16:00まで)

法輪寺

Webサイト

https://ikaruga-horinji.or.jp/

住所

生駒郡斑鳩町三井1570

アクセス

近鉄奈良駅から奈良交通バス「法隆寺前」行きで「法起寺前」下車、西へ徒歩約8分(650メートル)
奈良・西の京・斑鳩回遊ライン https://www.narakotsu.co.jp/rosen/kaiyu/

情報

拝観時間 8:00~17:00(11月~2月は16:30まで)

法起寺

Webサイト

http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/01shaji/02tera/02west_area/hokiji/

住所

生駒郡斑鳩町岡本1873

アクセス

近鉄奈良駅から奈良交通バス「法隆寺前」行きで「法起寺前」下車すぐ
奈良・西の京・斑鳩回遊ライン https://www.narakotsu.co.jp/rosen/kaiyu/

情報

拝観時間 8:00~17:00(11月4日~2月21日は16:30まで)

※2021年04月現在の情報です。

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