生駒の火祭り

毎年10月に往馬大社で行われる「生駒の火祭り」

生駒の火祭り

火をつかさどる男女の神

奈良市内の大通りから西を眺めると、意外に近く見える生駒山(いこまやま)。空気の澄んだ夕方には、登大路ホテル奈良の前の通りからも、山腹の街灯がきらきらとかがやいて見えることがあります。奈良県の北西、大阪府との県境にあるこの山の麓に、古来信仰を集める往馬大社(いこまたいしゃ)があります。こんもりとした鎮守の森は、県の天然記念物に指定されています。東端にある鳥居をくぐると、鎌倉時代に描かれた生駒曼荼羅と今も変わらない社景が広がり、急斜面の長い階段をのぼると、拝殿の奥に檜皮葺(ひわだぶき)の壮麗な社殿七棟が並んでいます。

往馬大社は正式名称を往馬坐伊古麻都比古神社(いこまにいますいこまつひこじんじゃ)といいます。現在は七柱の神が祀られていますが、元は火をつかさどる男女二神が祀られていました。毎年秋、この火の神の前で火を運ぶ速さ「火取り」を競うのが、奈良県の無形民俗文化財にも指定されている「生駒の火祭り」です。

「火取り」に使う松明は麻殻(おがら)から作る
「火取り」に使う松明は麻殻(おがら)から作る

「火取り」に使う松明は麻殻(おがら)から作る

宵宮

「体育の日」の前々日にあたる土曜日夕刻、火祭りの宵宮(よみや)が行われます。15時過ぎから関係者による行事や巫女による神楽奉納がはじまり、17時には子ども神輿が練り歩きます。18時、拝殿近くの祓戸社(はらえどしゃ)前では、2本の小さな松明にろくろでおこした神聖な火がともされます。「宵宮火(よみやび)」と呼ばれるこの松明は、広場中央の祭壇の大松明に点火されたあと、高座(たかざ、御旅所)と呼ばれる建物前の石段にそっと置かれます。南は下向き、北は上向きに置くというのが古くからの決まりです。みんなが大松明の火柱に目を奪われている19時、本殿前では宵宮祭の神事がおごそかに執り行われ、22時頃まで禊ぎや舞、宮太鼓の奉納などさまざまな行事が続き、境内は多くの人でにぎわいます。

燃えさかる祭壇の大松明と石段に置かれる「宵宮火」
燃えさかる祭壇の大松明と石段に置かれる「宵宮火」

燃えさかる祭壇の大松明と石段に置かれる「宵宮火」

南北対抗のお祭

本祭当日の日曜日、朝から例祭をはじめとした行事が粛々と進められ、いよいよ15時に神輿渡御(みこしとぎょ)が始まります。拝殿から担ぎ出された4基の神輿は、高張提灯(たかはりちょうちん)や猿田彦(天狗)、獅子などに先導されて境内の坂をゆっくりとくだり高座(御旅所)へ向かいます。神輿が鳥居をくぐった途端、先ほどまでの空気は一変します。一行は突然荒々しく走りだし、狭い高座の内部に神輿が次々に担ぎ入れられます。

生駒の火祭りは、かつて「けんか祭」や「勝負祭」と呼ばれたそうです。その理由は、クライマックスに行われる「火取り」のほか、神事の多くが南北で勝敗を競う真剣勝負だからです。まるで運動会の原型のようなお祭りに、氏子たちだけでなく、参拝者も一喜一憂して境内は熱気を帯びてゆきます。

高座(御旅所)に担ぎ込まれる神輿

高座(御旅所)に担ぎ込まれる神輿

わずか七段で勝敗を競う「火取り」

神輿が高座へ据えられると、神様への供え物をリレーして運ぶ「御供上げ(ごくあげ)神事」、大松明の上にゴムシ(御串)と呼ばれるススキを立てる早さを競う「大松明(おおたいまつ)神事」などのほかに、各町が供えた背丈の倍ほどもある御幣(ごへい)を宮司が左右に大きく振って氏子の無事平穏を祈る「奉幣(ほうべい)」など、独特の行事が数多く行われます。

左、宮司による「奉幣」/ 右、ゴムシと呼ばれる串を立てる早さを競う「大松明神事」
左、宮司による「奉幣」/ 右、ゴムシと呼ばれる串を立てる早さを競う「大松明神事」

左、宮司による「奉幣」/ 右、ゴムシと呼ばれる串を立てる早さを競う「大松明神事」

その後、南北それぞれ4名の「弁随(べんずり)」と呼ばれる人たちによる「べんずりの舞」が行われます。実はこの弁髄、南北の勝敗を決める審判者なのです。祭の最高責任者として接待を受けるということなのか、宵宮から本祭直前まで、飲むのが仕事だといわんばかりにたくさんの日本酒を飲みます。心なしかふらふらとしながら腰をひねったり、かがめたりする所作は、一見ラジオ体操のようにユーモラスですが、袖をつかみながら前進する「エビスクイの舞」など、古くからの所作を受け継ぎ、審判をくだす重要な役どころです。

勝敗の審判をする「弁随(べんずり)」による舞。

勝敗の審判をする「弁随(べんずり)」による舞。

「べんずりの舞」が終わるといよいよ「火取り神事」が行われます。太鼓の鳴り響くなか、松明を渡す役割の「火出し」が、高座の中で真っ赤に燃えさかる松明を両肩に乗せ、かけ声とともに南北2人の「火取り」に渡します。その瞬間、それぞれの火取りは七段の石段を一気に駆け下りて、そのまま南北に分かれて境内の外へと走り去ります。途中、大松明神事に使ったゴムシに松明の火が燃え移り、ゴムシを持っている人もまた、火の粉を散らしながら境内の外へと走ります。一瞬の出来事にあっけにとられている間に、弁髄が勝者側の弓矢を倒して神事は終了します。その後、拝殿前では、参拝者たちに燃え残った松明の麻殻(おがら)や、供え物のお下がりなどが配られます。麻殻は水引などで結び、災難除けのお守りとして玄関などに飾るといいそうです。

「火出し」から南北の「火取り」に松明が渡される

「火出し」から南北の「火取り」に松明が渡される

七段の石段を一気に駆け下りる

七段の石段を一気に駆け下りる

松明の火がゴムシにも移され、境内は炎と人の熱気で湧き上がる

松明の火がゴムシにも移され、境内は炎と人の熱気で湧き上がる

登大路ホテル奈良からのアクセス

往馬大社の火祭り

Webサイト

http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/01shaji/01jinja/02west_area/ikomajinja/

住所

生駒市壱分町1527-1

アクセス

近鉄奈良駅から奈良線生駒駅経由、生駒線一分(いちぶ)駅下車、北西へ約500メートル。乗換え時間を入れて50分ほど。

情報

毎年「体育の日」前日の日曜日に開催(宵宮はその前日の土曜日)

※2018年07月現在の情報です。

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