宇陀松山のまち並みと現代アート

毎年10月に「宇陀松山華小路」が行われる本膳小路

宇陀松山のまち並みと現代アート

万葉集にも詠まれた薬猟の地

奈良盆地の東南、桜井市と三重県名張市の間に位置する宇陀市は、菟田野町、大宇陀町、榛原町、室生村の4つの町村が合併して2006年にできた、県内6位の面積を持つ自治体です。市域の西南を占める大宇陀地区は、近鉄榛原駅から宇陀川の流れを7キロほど南へ辿った場所にあり、又兵衛桜や大宇陀温泉あきののゆ、うだ・アニマルパークなど人気スポットの集中するエリアです。

宇陀川の西域には、軽皇子(かるのみこ)の薬猟(くすりがり)に従った柿本人麻呂が、「東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ」の歌を詠んだとされる万葉集にゆかりの地、「人麻呂公園」や「かぎろひの丘万葉公園」があります。公園の北西にある「阿紀神社」は「元伊勢」と呼ばれる式内社で、毎年6月には蛍の飛び交う幽玄な境内で「あきの蛍能」が開催されます。

人麻呂公園の柿本人麻呂像と阿紀神社能舞台

人麻呂公園の柿本人麻呂像と阿紀神社能舞台

城下町から商家町「宇陀松山」へ

宇陀川の東には、辺り一帯を見渡すことのできる標高473メートルの古城山があります。この川と山に囲まれた南北約2キロメートルに広がる町家群が、国の重要伝統的建造物群保存地区「宇陀松山」です。

伊勢本街道や紀州街道にもつながり、壬申の乱の頃より交通の要衝であったこの地を、南北朝から戦国時代にかけて治め、16世紀後半に城を築いたのが秋山氏です。城や城下はその後、織田や豊臣家配下の大名によって整備され、「秋山(阿紀山)城」は「松山城」に改められました。

城下町の北西に位置する「黒門(西口関門)」は約400年前に建てられた国史跡

城下町の北西に位置する「黒門(西口関門)」は約400年前に建てられた国史跡

1615年、松山城は江戸幕府の一国一城令によって破却されその役目を終えます。その後80年4代にわたり藩主となった織田家は、1695年に丹波に国替えとなり、宇陀は幕府直轄の天領に。以降、一帯は、「松山千軒」あるいは「宇陀千軒」と呼ばれる商家町として栄えることになります。町には特に薬問屋が多く、大宇陀歴史文化館「薬の館」や、最後にご紹介する「森野旧薬園」では、宇陀と薬にまつわる歴史を知ることができます。

松山街道の南入口にある松山地区まちづくりセンター「千軒舎」。マップや資料が揃う

松山街道の南入口にある松山地区まちづくりセンター「千軒舎」。マップや資料が揃う

古い看板コレクションなど豊富な資料が展示される大宇陀歴史文化館「薬の館」

古い看板コレクションなど豊富な資料が展示される大宇陀歴史文化館「薬の館」

貴重な薬草が育ち、造り酒屋や吉野葛、醤油、奈良漬け、宇陀銘菓などの老舗が今も残る宇陀松山を支えてきたもののひとつが、清らかな水です。通りの両端には宇陀川から水をひいた「前川」と呼ばれる水路のせせらぎが聴こえ、ゆたかな土地の恵みを感じさせてくれます。

かつて宇陀紙問屋だった「山邊義徳家住宅」は江戸時代(18世紀後半)の建物

かつて宇陀紙問屋だった「山邊義徳家住宅」は江戸時代(18世紀後半)の建物

造り酒屋、奈良漬け、吉野葛などの老舗が健在

造り酒屋、奈良漬け、吉野葛などの老舗が健在

格子や意匠の解説があるまち歩きマップをもらってから巡るのがおすすめ

格子や意匠の解説があるまち歩きマップをもらってから巡るのがおすすめ

薬の看板を戸袋にした町家や洋館も要チェック

薬の看板を戸袋にした町家や洋館も要チェック

町家の芸術祭「はならぁと」

宇陀松山ではここ10年ほど、独自の景観を活かした新しい行事がさまざまに行われています。なかでも、2011年から1年おきに行われる「奈良・町家の芸術祭 はならぁと」は、人々のくらしの記憶が刻まれた古い建物を使って繰りひろげられるアートプロジェクトです。2019年は、明治時代の旧芝居小屋「喜楽屋」をメイン会場にした「喜楽座の復活祭」が開催される予定です。はならぁとと同時期に行われる「宇陀松山華小路」(毎年10月開催)は、宇陀産ダリアのファンを増やしたいという願いを込めて、シックな路地に鮮やかなダリアの花を敷きつめるイベント。ほかにも8月に行われるライトアップ「宇陀松山夢街道」など、普段の落ち着いたまち並みに新しい息吹を吹き込む取り組みが、多くの人たちの手によって続けられています。

毎年10月に行われる「宇陀松山華小路」

毎年10月に行われる「宇陀松山華小路」

2019年で20回目を迎えるまち並みライトアップ「宇陀松山夢街道」(8月下旬開催)

2019年で20回目を迎えるまち並みライトアップ「宇陀松山夢街道」(8月下旬開催)

日本最古の私設薬草園「森野旧薬園」

松山街道を南から北に向かって進むと、ほどなく右手に「史跡森野旧薬園」の石碑と吉野葛の木製看板が目に入ります。薬園は現存する日本最古の私設薬草園で、1926年に国の史跡に指定されました。

約250種の薬草木が栽培されている森野旧薬園入口と森野吉野葛本舗

約250種の薬草木が栽培されている森野旧薬園入口と森野吉野葛本舗

今から300年近く前の1729年にこの薬園を開いたのは、代々吉野葛を製造している「森野吉野葛本舗」森野家11代当主の通貞です。当時の薬は高価な輸入生薬を使うものが多く、庶民の手には届かない希少品でした。その頃、家業の傍ら本草(ほんぞう)と呼ばれる薬用植物に親しみ、研究に励んでいた通貞の噂は、生薬の国産化に取り組む将軍吉宗の耳にも届きます。通貞は幕府の採薬使である植村左平次とともに近畿一円の薬草採取や栽培に力を注ぎ、国産漢方薬の普及に貢献しました。敷地内の資料館には森野通貞(藤助、塞郭)がまとめた全10巻の「松山本草」などが展示されています。

隠居した通貞が薬草研究に励んだ「桃岳庵」と「松山本草」

隠居した通貞が薬草研究に励んだ「桃岳庵」と「松山本草」

資料館の奥の石段を進み、多くの文人が集ったという「石水亭」の門をくぐると、かすかに薬草の匂いが漂います。城跡のある山の南西斜面にあたる広い薬園には、幕府から下付された貴重な薬草とともに、自生するカタクリなど約250種の薬草木がいまも大切に栽培されています。宇陀松山のまち並みを見渡すことのできる中腹をさらに上ると、通貞が隠居後に薬草図鑑「松山本草」を著した「桃岳庵」の周辺からさらに奥にかけて、江戸時代の面影を残す薬園が広がります。

宇陀松山のまち並みが一望できる森野旧薬園中腹

宇陀松山のまち並みが一望できる森野旧薬園中腹

森野吉野葛本舗直営店「葛の館」の茶房では、注文してから火にかける作りたての葛菓子が人気

森野吉野葛本舗直営店「葛の館」の茶房では、注文してから火にかける作りたての葛菓子が人気

登大路ホテル奈良からのアクセス

松山地区まちづくりセンター「千軒舎」

Webサイト

http://aknv.city.uda.nara.jp/matuyama/center.html

住所

宇陀市大宇陀拾生1846 電話 0745-87-2274

アクセス

近鉄奈良駅より大和西大寺駅、大和八木駅経由、榛原駅下車、奈良交通バス「大宇陀」行きに乗り「大宇陀」下車、東へ徒歩約2分(約200メートル)

情報

開館時間 9:00~17:00(12月29日~1月3日休館)

宇陀市大宇陀歴史文化館「薬の館」

Webサイト

http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/04public/02museum/03east_area/0000004069/

住所

宇陀市大宇陀上2003 電話 0745-83-3988

アクセス

近鉄奈良駅より大和西大寺駅、大和八木駅経由、榛原駅下車、奈良交通バス「大宇陀」行きに乗り「大宇陀高校前」下車、東へ徒歩約10分(約700メートル)

情報

開館時間 9:00~16:00(毎週月・火曜日(祝日の場合は翌日以降)と12月15日~1月15日休館)

森野旧薬園・森野吉野葛本舗

Webサイト

https://www.morino-kuzu.com/kyuyaku/

住所

宇陀市大宇陀上新1880 電話 0745-83-0002

アクセス

近鉄奈良駅より大和西大寺駅、大和八木駅経由、榛原駅下車、奈良交通バス「大宇陀」行きに乗り「大宇陀」下車、北東へ徒歩約4分(約250メートル)

情報

9:00~17:00(不定休)

葛の館

Webサイト

https://www.morino-kuzu.com/chokubai/

住所

宇陀市大宇陀西山3 電話0745-87-3011

アクセス

近鉄奈良駅より大和西大寺駅、大和八木駅経由、榛原駅下車、奈良交通バス「大宇陀」行きに乗り「西山」下車、北へ徒歩約5分(約300メートル)

情報

開店時間 冬期9:00~17:00(オーダー10:00~16:00)、夏期9:00~18:00(オーダー10:00~17:00)
定休日 繁忙期を除く水曜日と年末年始など

奈良・町家の芸術祭 はならぁと2019

Webサイト

https://hanarart.jp/2019/index.html

アクセス

宇陀松山エリア会期 :2019年10月18日(金)~20日(日)、10月25日(金)~27日(日)
※「宇陀松山華小路」は2019年は10月19日(金)、20日(日)の開催予定
そのほか、橿原エリア、柳生エリア、吉野町上市エリアでそれぞれ別会期に開催予定

※2019年09月現在の情報です。

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