三枝祭(さいくさのまつり・ゆりまつり)

率川神社「三枝祭」 写真:野本暉房

三枝祭(さいくさのまつり・ゆりまつり)

疫病を鎮める花のお祭り

春日山を源流とする清らかな川の流れが、古く万葉集にも詠まれている率川(いさがわ)。現在は、大部分が地下水路となってしまいましたが、猿沢池の西南にある小さな石橋「嶋嘉橋(しまがばし)」周辺は、往時を思わせるたたずまいを残しています。さらに猿沢池から西、三条通の一筋南をゆるやかに蛇行する小径の地下には、今も率川がひっそりと流れており、南北にのびる商店街を横切りながら西へ400メートルほど道なりに進み、石柱が残る率川橋跡を抜けると、幹線道路「やすらぎの道」の西に面した神社の玉垣が目に入ります。これが、推古天皇元年(593年)に大神神社(おおみわじんじゃ)の摂社として創建された奈良市最古の神社といわれる「率川神社(いさがわじんじゃ)」。ここで毎年6月17日に行われるのが、「ゆりまつり」の名で親しまれている「三枝祭(さいくさのまつり)」です。

率川神社のご神体は、媛蹈鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)と、その父である狭井大神(さいのおおかみ)、そして母である玉櫛姫命(たまくしひめのみこと)の三体。桜井市にある三輪山(みわやま)をご神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)境内を流れる狭井川(さいがわ)のほとりにすんでいたという姫は、神武天皇の后になったと「古事記」などに記されています。拝殿本殿は娘である媛蹈鞴五十鈴姫命を守るように、左に父、右に母が鎮座していることから、「子守明神」の名で親しまれ、安産や育児、家庭円満の神様として信仰を集めています。

媛蹈鞴五十鈴姫命が住んでいたといわれる狭井川のほとりは、ささゆりが美しく咲き誇る場所でした。ささゆりの古名は「さい」、枝先が3つにわかれた「三枝(さいくさ)」の花が「ささゆり」です。「三枝祭(ゆりまつり)」は大神神社で毎年4月18日に行われる鎮花祭とともに、疫病を鎮めるための国家祭祀として大宝元年(701年)に制定されたといわれています。「花の散る頃には疫病が飛散する」と信じられた古代、ほんのりピンク色に染まって凜と咲くささゆりは、清楚な匂いとともに、厄を寄せ付けない霊力を持つ花として、人びとを魅了したのかも知れませんね。

大神神社からささゆりを奉献

6月17日の「三枝祭」例祭のために、大神神社では前日16日の午前9時半から、奉献神事道中安全祈願祭が執り行われます。この日のために大切に育てられたご神花である「ささゆり」が、三輪山のふもと大神神社から奈良市内の率川神社に運ばれるのです。興味深いのは、途中に万葉まほろば線の電車に乗り込みJR奈良駅に到着することです。JR奈良駅前の広場では「ささゆり音頭」などが踊られ、ささゆりは「お花車」に乗せられて、近鉄駅前や東向商店街、そしてもちいどのセンター街などを巡行しながら、華々しく率川神社へ向かいます。

奉献道中、万葉まほろば線で運ばれるささゆり  写真:野本暉房

奉献道中、万葉まほろば線で運ばれるささゆり  写真:野本暉房

美しい巫女の舞

いよいよ、6月17日。午前10時半から、古式に則った「三枝祭」が執り行われます。神様への供え物「神饌(しんせん)」のうち、「白酒(しろき)」と呼ばれる清酒は「缶(ほとぎ)」に、黒酒(くろき)」と呼ばれる濁り酒は「罇(そん)」という酒樽に入れられ、その周りにはていねいにささゆりが編み込まれています。神前では、ささゆりの花を手にした4人の巫女による「うま酒みわの舞」がおごそかに舞われます。このとき注意して見ておきたいのが、巫女の額に巻かれた「ヒカゲノカズラ」です。別名を「キツネノタスキ」ともいう山野に自生する多年草ですが、これは日本最古の踊り子ともいわれるアメノウズメが、天岩戸の前で踊ったときに身につけていた植物です。神秘的な巫女の舞と、古くから漢方にも頻用されたというささゆりの霊力が、疫病を鎮めてくれると信じられており、神事がおわると、参拝客には御神酒が振る舞われます。

4人の巫女による「うま酒 みわの舞」  写真:野本暉房
4人の巫女による「うま酒 みわの舞」  写真:野本暉房

4人の巫女による「うま酒 みわの舞」  写真:野本暉房

華やかに奈良の町を巡幸する行列

「三枝祭」がとどこおりなく終わると、午後からは七媛女(ななおとめ)・ゆり姫・稚児による行列巡行が行われます。七媛女とは、古事記も出てくる媛蹈鞴五十鈴姫命と神武天皇の出会いのシーンに登場する乙女たち。勾玉のネックレスを首から掛けた鮮やかな衣装の七媛女を先頭に、ゆり姫や稚児が、奈良市内を巡幸します。翌18日には後宴祭や奉納演芸などが行われます。

率川神社から300メートルほど北上したところにある漢国神社(かんごうじんじゃ)では、同じく6月17日午前10時半から「鎮華 三枝祭(はなしずめ さきぐさまつり)」が執り行われます。巫女の舞はありませんが、同じくささゆりを奉納し、代わりに清和四條流一門による、包丁と真魚箸(まなばし)だけを使った式庖丁奉納が行われます。張りつめた空気の中で大きな鯉を鮮やかに切り分ける巧みな庖丁さばきは、一見の価値があります。

ともに、ささゆりのやさしいピンク色が梅雨空にも美しい、奈良に夏を告げるお祭りです。

七媛女・ゆり姫・稚児行列  写真:野本暉房

七媛女・ゆり姫・稚児行列  写真:野本暉房

登大路ホテル奈良からのアクセス

率川神社の三枝祭(さいくさのまつり・ゆりまつり)

Webサイト

http://isagawa-jinja.jp/omatsuri/saikusa/#linktop

住所

奈良県奈良市本子守町18

アクセス

ホテルの前の登大路を西へ約350メートル、「高天」交差点を南へ折れ350メートル、「やすらぎの道」西側。所要時間徒歩約10分

情報

毎年6月16日
 09:30~ 大神神社(桜井市)にて奉献神事道中安全祈願祭
 11:00頃 JR万葉まほろば線でJR奈良駅到着、ささゆり奉献行列 率川神社へ
 13:00頃 ささゆり奉献奉告祭
 15:00   宵宮祭

6月17日
 10:30~ 三枝祭(ゆりまつり)
 13:15~ 七媛女(ななおとめ)・ゆり姫・稚児行列安全祈願祭、市内巡幸

6月18日
 10:00   後宴祭
 16:00頃~ 奉納演芸開催

※2018年04月現在の情報です。

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