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【綴る奈良vol.2】若草山焼き

若草山焼き  写真:Photographer MIKI

 

春を呼ぶ祭り

 

近鉄奈良駅前から登大路を東に向かうと、芝生に覆われたなだらかな斜面が目に飛び込んできます。奈良の景観を語る上で、欠かすことのできない「若草山」です。新緑の季節には、山の名前そのままの若草色にかがやく芝生を生み出すのが、毎年1月下旬に行われている「若草山焼き」です。厳冬の古都奈良の夜景を赤く染める伝統行事は、春を呼ぶ祭りとも言われています。

 

夏の若草山

 

若草山あれこれと山焼きの起源

 

奈良公園の東に位置する若草山(別名・三笠山)は、標高342メートル・面積33ヘクタールと小ぶりでありながら、奈良の市街地からはもちろん、薬師寺・唐招提寺のある西ノ京エリア、さらには大阪との県境にある生駒山からもすぐに見つけることのできる、存在感のある山です。平城宮跡を通り抜ける近鉄奈良線の車窓に若草山を見つけて、「ああ、奈良へやって来た」と思われる方も多いのではないでしょうか。春夏秋冬を通して刻々と色彩を変えてゆくその姿は古くから歌に詠まれ、奈良の代表的な名所を集めた「南都八景」には、芝生を真っ白に覆う雪景色が「三笠山の雪」として選ばれています。明治初め(19世紀後半)には、牧場として牛が飼われていたという記録もあるようです。

若草山焼きがいつから行われるようになったのか、なぜ行われるようになったのかについては諸説があります。一説には農耕の山焼きに起源を持つといい、実際に春に若草山で採れた蕨(わらび)は特にやわらかく、食通にも好まれたとのこと。根はわらび餅の原料になります。別の一説には若草山に出没する幽霊を退治するために必要だと信じられ、江戸時代には取り締まっても放火が止まず、近くの三月堂などが燃えてしまいそうになったこともあるのだとか。また別の一説には社寺間の領地争いだったともいいますが、はっきりとした由来はわかりません。現在は、春日大社・興福寺・東大寺の神官や僧たちが集い、平和を祈る冬の祭典として親しまれています。

 

さまざまな場所で体感したい若草山焼き

 

冬至からひと月ほど経った、1月第4土曜日。日没までまだ少し時間のある午後4時45分頃に、春日大社参道南側の飛火野(とびひの)で「御神火奉戴祭(ごしんかほうたいさい)」がはじまります。この日の午後1時から行われていた、しめ縄などのお焚き上げ「春日の大とんど」から御神火をもらい受けた時代行列の一行は、法螺貝の音色に導かれるように春日大社の摂社・水谷神社(みずやじんじゃ)へと向かいます。そこで御神火を松明に点火したあと、さらに一行は若草山麓にある野上神社へと進みます。読経のなか、松明の御神火はかがり火へ、そして山麓中央の大かがり火へと順に移されてゆきます。

 

若草山麓 野上神社  写真:野本暉房

 

午後6時15分頃になると、奈良県の花火師たちによる大花火の打ち上げがはじまります。実は奈良と花火には深い縁があります。江戸時代に両国の大花火の祖と言われた鍵屋弥兵衛は、現在の五條市大塔村篠原の出身。1900年までは昼に行われていた若草山焼きですが、なんだか不思議なご縁を感じますね。

華やかな花火がフィナーレを迎えた午後6時半頃、いよいよ山焼きがはじまります。山麓中央の大かがり火から松明に火を移し、法螺貝やラッパの合図で山全体に点火していくのは、約300名の奈良市の消防団員。火は枯れ草に次々と燃え移り、30分ほどで山全体を生き物のように巡ります。間近で見ればその迫力に圧倒され、遠くから見れば幻想的な光景にうっとりとする若草山焼き。場所を変えて、何度でも見たい奈良の冬の風物詩です。

翌朝、昨日までと打って変わって黒い地肌を見せる若草山。原始的な生命力さえ感じさせるその山肌は、冬の寒さの中にも春に向けた再生を始めています。

 

平城宮跡朱雀門と若草山焼き  写真:Photographer MIKI

 


 

若草山焼き

http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/02nature/01mountain/01north_area/wakakusayama/event/qmtofgu2qk/

 

毎年1月第4土曜日開催(荒天により中止の場合は翌日)

当日の主なスケジュール

 

飛火野(とびひの)
16:45頃
  • 御神火奉戴祭(ごしんかほうたいさい)
17:05頃
  • 聖火行列出発
水谷神社(みずやじんじゃ)
17:15頃
  • 松明点火
野上神社(のがみじんじゃ)・若草山麓
17:40頃
  • 野上神社祭典
18:15頃
  • 大花火打ち上げ
18:30頃
  • 山焼き一斉点火

 

若草山開山時期

  • 3月第3土曜日から12月第2日曜日(要入山料)
  • 若草山焼き開催日は入山料無料(ただし山頂への登山は不可)

 

※スケジュールは2018年1月現在のものです