春日若宮おん祭

宵宮祭(遷幸の儀、還幸の儀は撮影禁止)  写真:野本暉房

春日若宮おん祭

零時から翌零時まで、1日だけの神遊び

12月17日午前零時。すべての灯りが消された浄らかな闇の中、「若宮様(わかみやさま)」の1年に1度、24時間の旅がはじまります。春日大社本殿南東にある若宮社から一の鳥居東にある「御旅所(おたびしょ)」まで、若宮を遷す「遷幸(せんこう)の儀」は、撮影はもちろん、懐中電灯を点すことさえ禁じられた神秘の行事。神職が「ヲーヲー」と地鳴りのような声をあげる警蹕(けいひつ)の音や、寒さと暗さにとぎ澄まされた嗅覚に届く沈香の香り、わずかな空気の動きに揺らめく松明の残り火がさらに闇を深くする中を、言葉では到底言い尽くせそうもない畏れ多い「気配」が通過してゆきます。榊を手にした神職に幾重にも取り囲まれながら、若宮は人目に触れることなく、御旅所の仮御殿に遷ってゆくのです。

宵宮祭(遷幸の儀、還幸の儀は撮影禁止)  写真:野本暉房

宵宮祭(遷幸の儀、還幸の儀は撮影禁止)  写真:野本暉房

創始以来約900年途切れることのない祭礼

世界遺産・春日大社の創建は、今からおよそ1300年前のこと。平城遷都で日本各地から招かれた4柱の神が祭神となり、国家鎮護を祈ったのが始まりといわれています。現在では世界平和や万民幸福を祈るため、年間1000回にも及ぶ祭礼が連綿と受け継がれ、数多くの伝統芸能が奉納されている春日大社。なかでも、とりわけ重要な祭礼が「おん祭」だということは、「おん祭」つまり「御祭」という普通名詞が、固有の祭礼を指してしまうことからも容易に想像ができます。その「おん祭」の主役「若宮様」は、春日大社創建から230年以上経った西暦1003年に、本殿の床から突如出現したといわれています。水を司る神として畏怖され、出現からさらに100年以上後の1135年に、本殿とは別に若宮社が建てられました。「春日若宮おん祭」が始まったのは翌年の1136年。若くて力強い神の力を頼み、五穀豊穣を願う大和一国を挙げての祭礼は、以来約900年にわたり戦乱や災害にも途切れることなく現在に受け継がれ、2017年に第882回を迎えます。

お渡り式、そして御旅所祭

お渡り式 写真:野本暉房

お渡り式 写真:野本暉房

「春日若宮おん祭」を華やかに印象づけるのが、千人もの行列が奈良市内を練り歩く「お渡り式」です。正午に奈良県庁前を出発した一行は、登大路を西へ進み、近鉄奈良駅前、JR奈良駅前を経て、春日大社へとまっすぐ伸びる三条通を東に向かいます。一般的に「お渡り」といえば神そのものの移動を指しますが、おん祭の場合、若宮はすでに御旅所に遷っています。祭礼の参加者が一団となって若宮のいる御旅所へ練り込むというのが、おん祭におけるお渡り式の特徴なのです。長い長い行列は、明治以降に加わった前行行列の後に、創始当時から江戸時代までの風俗がよみがえったような伝統行列が続き、芸能集団は一の鳥居そばの「影向(ようごう)の松」の前で「松の下式」を行い、芸を披露します。能楽のルーツである猿楽や、奈良一刀彫りの起源といわれる人形を頭上に乗せた田楽座の一員、山鳥の尾を笠の頂につけ、牡丹の造花を背中にあしらった馬長児(ばちょうのちご)と呼ばれる愛らしい少年等々、絵巻物さながらの行列を間近で見ることができるのも、おん祭の醍醐味です。

御旅所祭 献饌ノ儀(左)と社伝神楽  写真:野本暉房
御旅所祭 献饌ノ儀(左)と社伝神楽  写真:野本暉房

御旅所祭 献饌ノ儀(左)と社伝神楽  写真:野本暉房

お渡りの行列が一の鳥居から東へ300メートルほどの御旅所に入ると、午後2時30分から「御旅所祭」が始まります。仮御殿前の芝舞台では、午後10時半ごろまで約8時間にも渡り、平安時代から伝えられてきた芸能が次から次へと奉納されます。午後5時前に日が沈むと、篝火と瓜灯籠のあかりが妖しくかがやきだし、幻想的な空気がただよってきます。現代人にはゆったりし過ぎていると思える所作も、見慣れてくると、洗練され、心を込めた、祈りの諸相であることが実感として伝わってきます。五穀豊穣をただ一方的に願うのではなく、礼を尽くして神を迎え、さらに神と一緒に楽しむことが祭の本質だと感じる瞬間が訪れます。このあと、「遷幸の儀」と同じ方法の「還幸(かんこう)の儀」によって、若宮は17日中に若宮社に戻らねばなりません。祭礼に関わる人たちにとっては膨大な時間と労力をかけて準備を重ねた一日が、そして若宮にとっては24時間かぎりの旅の一日が、終わりを告げます。

御旅所祭 和舞(やまとまい) 写真:野本暉房

御旅所祭 和舞(やまとまい) 写真:野本暉房

登大路ホテル奈良からのアクセス

国指定重要無形民俗文化財「春日若宮おん祭」

Webサイト

http://www.kasugataisha.or.jp/onmatsuri/

住所

奈良県奈良市春日野町160

情報

※奈良国立博物館では、おん祭の前後に特別陳列あり。12月17日は全館無料。

12月15日(金)
大宿所祭(おおしゅくしょさい/餅飯殿商店街に隣接する大宿所にて午後5時)
御湯立(みゆたて/同大宿所にて午後2時30分、4時30分、6時)
ほかにのっぺ汁のふるまいがある。
12月16日(土)
宵宮祭(よみやさい/若宮社にて午後4時)
12月17日(日)
遷幸の儀(せんこうのぎ/若宮社から御旅所 午前0時)
暁祭(あかつきさい/御旅所 午前1時)
お渡り式(おわたりしき/奈良市内 正午)
御旅所祭(おたびしょさい/御旅所にて午後2時30分)
還幸の儀(かんこうのぎ/御旅所から若宮社にて午後11時頃)
12月18日(月)
奉納相撲・後宴能(ほうのうずもう・ごえんののう/御旅所にて午後1時)

※2017年12月現在の情報です。

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