大和茶のゆたかな香り

奈良とお茶とのかかわりなくして、日本のお茶の歴史は語れません。

大和茶のゆたかな香り

奈良とお茶

日本で最初にお茶をふるまったのは、天平元年(729年)に僧侶百人に「行茶(ぎょうちゃ)」を催した聖武天皇だといわれています。その約20年後、東大寺の大仏建立に関わった僧、行基による施茶の記録もあります。9世紀初め、弘法大師空海が唐から茶の種子と茶臼を持ち帰ったと伝わるのは、県東部に位置する宇陀の仏隆寺。12世紀末に喫茶を広めたといわれる栄西は、唐から茶を持ち帰ったあとに東大寺大仏再建の勧進職も務めるなど、奈良と多くのかかわりを持っています。さらに時代は下って15世紀後半、「わび茶」の創始者とされる村田珠光は現在の奈良市出身。その珠光が考案したといわれる「茶筌」は、国の伝統的工芸品として県北西部の生駒市高山地区でつくり続けられています。奈良とお茶とのかかわりなくして、日本のお茶の歴史は語れません。

大和茶の生産地、大和高原

日当たりのよい高原で栽培される大和茶

日当たりのよい高原で栽培される大和茶

現在、奈良でつくられるお茶は、「大和茶」と呼ばれています。仕上げ加工前の状態を指す「荒茶」の生産量は、2016年度で全国7位の1,720トン。大和茶の主な生産地は、県の北東部に位置する大和高原(やまとこうげん)です。大和高原は、京都の茶どころ宇治や和束の南にあたる標高400~500メートルの高原地帯で、緩やかな起伏と寒暖のある高原の風土が、お茶を育てるのに適しています。

一般に茶摘みが始まるのは立春から数えて八十八夜と言われる5月初めですが、標高の高い大和高原の茶摘みは5月中旬以降に始まります。春日山の東奥にあたる奈良市田原(たわら)地区では、太陽に照らされたやわらかな新芽が、田植えのあとのみずみずしい里山の景色を一層かがやかせる頃です。

田原は、奈良時代の天皇陵が点在する古い歴史を持つ里山です。1979年に茶畑の開墾中に古事記の編纂者である太安万侶(おおのやすまろ)の墓が発見されたときには、大きなニュースになりました。田原で本格的なお茶づくりが始まったのは、今から200年ほど前の文政年間といわれます。田原の中貫(なかづら)と呼ばれる場所で茶園を開いた「かせや庄七」の名前は、静岡にも知れ渡るほどだったといわれ、今も茶作り唄に残されています。

   お茶の始めは中貫(なかづら)村の かせや庄七揉み始め
   ほいろの煙に茶の香がかおる 緑の茶山に色かおる

約200年前に「かせや庄七」が開いたといわれる茶畑(現竹西農園)

約200年前に「かせや庄七」が開いたといわれる茶畑(現竹西農園)

江戸時代から続く茶園で無農薬有機栽培

このかせや庄七の茶園を受け継いでいるのが、江戸時代から茶業を営む竹西家です。「竹西農園」では、1995年から保有するすべての茶園で、無農薬有機栽培をはじめました。きっかけは五代目長士(ながひと)さんの体調の変化。広大な茶畑での化学肥料の散布作業が、からだにも負担なのではないかと感じ始めていた頃に、自然農法の農家を見学。試行錯誤の末、米ぬかや糖蜜などに微生物菌を入れて完熟発酵させた肥料を使うことに決めたといいます。

夫人の多香子さんによると、無農薬栽培をはじめた1~2年は、それまでの農薬が効いているのか、虫も出てこなかったといいます。ところが、土が改良されてきた3年目に害虫が出始め、新芽が食べられてしまいます。しかし、自然はよくできているもので、4年目には害虫の天敵であるテントウムシなどの益虫がやってくるように。以来、その年の天候によるものの、収穫はほぼ順調といいます。育ちがよくなる農薬を使わないため、新芽は「一番茶」のみ、「二番茶」の収穫は行わず、来年のために取っておくのだそうです。除草剤も使わないため雑草とりが大変ですが、作り手も飲み手も安心できるお茶づくりを、四半世紀にわたり続けています。

無農薬有機栽培の茶畑には益虫のテントウムシもやってくる

無農薬有機栽培の茶畑には益虫のテントウムシもやってくる

有機栽培で作ったお茶は、見た目はそれほどよくありません。問屋から高い評価を受けられなくなったため、やむなくフリーマーケットなどで直接販売してみると、どこで作っているのかと尋ねられるように。自分たちのお茶を飲んでくれる人たちに、田原の良さをもっと知ってもらい、茶畑を見てもらいたい。田原と同じ大和高原の水間(みま)で育った多香子さんが、そんな思いで作ったのが和カフェ「遊茶庵(ゆうちゃあん)」です。大和茶のゆたかな香りや美味しさをより深く知ってもらおうと、日本茶インストラクターの資格も取得した多香子さん手作りのスイーツや、ヘルシーなランチが人気です。

大きな窓の外には、心を落ち着かせてくれる里山の風景が広がります。明治の内国勧業博覧会では一等を受賞、ロシアやアメリカにも輸出されていたという田原のお茶。ワイナリーやスローフードの歴史にヒントを得ながら、実り多い里山と、そこで育てられるお茶の両方を楽しんでもらおうという試みが、大和茶の新しい魅力を生み出しています。

自宅に併設した「遊茶庵」では、季節ごとのランチやスイーツが楽しめる

自宅に併設した「遊茶庵」では、季節ごとのランチやスイーツが楽しめる

登大路ホテル奈良からのアクセス

竹西農園直営 和カフェ「遊茶庵」

Webサイト

https://www.yamatocha.net/user_data/ucha.php

住所

奈良市中之庄町458 電話0742-81-0383 FAX 0742-81-0390

アクセス

JR・近鉄奈良駅から奈良交通バス「下水間」または「北野」行きに乗り「中之庄」下車、東南へ徒歩約10分(700メートル)

情報

・開店時間 土・日・祝 10:00~17:00(カフェ)
・ランチは要予約(平日も可能、4名から)
・茶摘み繁忙期の5~6月頃は休み
・竹西農園のお茶は「まほろばキッチンJR奈良駅前店」等でも購入可

※2019年05月現在の情報です。

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